あらすじ(plot)

 少女が歌っている。真夜中の静寂に包まれた舞台で、ただ一人。

 朗らかな、まるでこの世の全てを祝福するかのような、透き通る声で。

――目が合った。僕がこの娘の顔を忘れるはずがない。

 少女はふと顔をほころばせる。天使の讃美歌が響いていたのは荘厳な教会などではなく、見慣れた木造の舞台だ。

……目の前の非現実的な光景は何だろう。昼間に聞いたあの子どもじみた怪談話が本当だというのか。そんな馬鹿な。

「――自殺した女の子の霊がね、夜な夜な学校の離れ小屋の舞台で一人、演劇をしてるんだって」
「――『舞台の世界は空想の世界』。空想の世界に連れて行かれた人は、永遠に戻ってこられないんだって」

 コツリ。コツリ。 彼女は微笑しながら、踊るように軽やかな足取りで、一歩一歩近づいてくる。リノリウムの床を叩く足音は、木管楽器のように響いた。
 信じられないほどの動悸で、思考が上手く働かない。手足が冷たい。僕は彼女から目が離せない。

 緑色のワンピースが、ステップを踏むたびにふわりふわりと翻る。

――一瞬。本当に一瞬、瞬きをした刹那、彼女は消えてしまった。そして次の瞬間、目の前にぴょこんと現れる。舞台の背景には「なかったはずの」月が「描かれ」、絵の具の星々の瞬きが僕らを照らし出す。

「こんばんは! 月がとっても綺麗ね!」

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「空想」と「現実」の境界はどこにあるんだろう?

「読み手」は「創作物」に対して何ができるんだろう?

 子どもの頃、ずっとそばにいた『空想』が、再び僕らの前に現れる。