あらすじ(plot)
【※Fairy Tale Ending :(英)おとぎ話のようなハッピーエンド。大団円。】
これは、世界で一番ハッピーエンドの物語。
「受け入れられなかったんだ。
バッドエンドの、物語。
大好きなキャラクターが死んでしまうエンディング。
ハッピーエンドにしてあげたかった。
正義のヒーローも悪い魔女も、モンスターも名前のないキャラクターも。
みんな読者を幸せにしてくれたから。
物語の結末は、作者以外の誰にも変えることはできない……はずだけれど。
それでも、わたしは求めずにはいられないから。
あらゆる物語のあらゆるキャラクターが辿り着く、ハッピーエンドのカーテンコール。
魔法のような、ハッピーエンディング」
『Fairy Tale Ending』
少女が歌っている。真夜中の静寂に包まれた舞台で、ただ一人。
朗らかな、まるでこの世の全てを祝福するかのような、透き通る声で。
――目が合った。僕がこの娘の顔を忘れるはずがない。
少女はふと顔をほころばせる。天使の讃美歌が響いていたのは荘厳な教会などではなく、見慣れた木造の舞台だ。
……目の前の非現実的な光景は何だろう。昼間に聞いたあの子どもじみた怪談話が本当だというのか。そんな馬鹿な。
「――自殺した女の子の霊がね、夜な夜な学校の離れ小屋の舞台で一人、演劇をしてるんだって」
「――『舞台の世界は空想の世界』。空想の世界に連れて行かれた人は、二度と戻ってこられないんだって」
コツリ。コツリ。彼女は微笑しながら、踊るように軽やかな足取りで、一歩一歩近づいてくる。
リノリウムの床を叩く足音は、木管楽器のように響いた。
信じられないほどの動悸で、思考が上手く働かない。手足が冷たい。僕は彼女から目が離せない。
翠玉のワンピースが、ステップを踏むたびにふわりふわりと翻る。
――一瞬。本当に一瞬、瞬きをした刹那、彼女は消えてしまった。そして次の瞬間、目の前にぴょこんと現れる。
舞台の背景には「なかったはずの」月が「描かれ」、絵の具の星々の瞬きが僕らを照らし出す。
少女「こんばんは! 月がとっても綺麗ね!」